\.樹木にとっての『健康』とは?



まず、人間にとって、健康とはどういう状態なのでしょうか?
『ご飯がおいしく食べられるのが健康ということだ』
というのを聞いたことがあります。
肉体的にも精神的にも健康でなければ、
ご飯がおいしくないからだ、とのこと。

人間に限らず、動物では、体の一部の調子が悪いと
その個体全体を指して、『調子が悪い』となりますが、
植物の場合、特に樹木では事情が異なります。

動物は捕食者に狙われると、基本的には移動する(つまり逃げる)ことで生き残る、
という進化をしてきています。

それに対し、植物は『動かない』という選択をして、これまで進化してきました。
そして、植物のとった捕食者対策の一つは、『』を持つことです。(X.葉 H葉の虫害
それぞれの植物につくことの出来る害虫は、とても限られています。
なぜなら、基本的に全ての植物にはそれぞれ特有の毒があるからです。
その毒に適応していない虫がその植物を食べることは出来ない。
逆に言えば、それぞれの虫は、特有の植物の毒に対して適応している。

樹木のとった捕食者対策の一つは、『木化』です。
(その壱 D樹木と草の違いはなんでしょうか?
木化が捕食者対策の結果であったかどうかはさておき、
樹体のなかで、虫や動物が摂食できる部位は限られています。
植物の体は大部分が炭水化物で出来ていますが、
その大部分がセルロース(食物繊維)です。
昆虫を含め、動物でこのセルロースを自力で分解できるものはいません。
シロアリですら、体内に飼っている微生物の力を借りているのです。
これが樹木となると、その困難は草本類の比ではありません。
木化をすることにより、セルロースにリグニンが加わると、
あの樹木独特の固さになります。
そういうわけで、樹木が食害されるのは、殆んどが『』です。
』は木化しないため、利用しやすい部位ですし、
繊維質以外の炭水化物(糖類)も豊富です。
なにより、食べやすく、消化しやすい。

そのようなわけで、樹体の中で、動物に攻撃される部位は、
ほとんどなのですが、
樹木としても、葉をある程度食べられるのは折り込み済みなのです。
多少の葉を食べられても、支障が出ないように、葉をたくさんつけています。


ですので、葉を食べられているからと言って、単純に、
樹木が実害を受けているとは言えないのです。
樹木全体の成長や活性に支障が出ていなければ、
被害ではないのです。

これは、害虫駆除を考えるときに重要な考え方です。

虫に食べられているからといって、
その食害を一切出ないようにしようとすれば、
皆殺しにするという考え方になり、
薬剤の散歩量も多くなりすぎます。
人体への影響も気になりますが、
肝心の樹木自体への薬害も出やすくなります。
『角を矯めて牛を殺す』
という諺のように。


人間でも同じだと思いますが、
『何か体にいいものを食べて健康になろう』
というより、
『何も実害のない状態にしよう』
つまり『バランスがとれている』ということ自体がすなわち
健康である
ということなのです。

そのような意味では、樹木医学の考え方は、
人間で言えば、西洋医学よりも東洋医学的のように思います。


「樹木診断概論」のトップページに戻る