A樹幹の成長度とその意味


樹木を診断する際、幹の成長を診ることはとても重要です。

結論から言いますが
樹幹の成長を診れば、
ここ最近10年〜15年のその樹木全体の成長がどうであったのかが
おおよそ判断できます。

葉で作られた栄養は枝を通り、
幹を通って、根の方向に向かって移動します。
その移動中にその栄養が利用されて、
葉や枝や幹や根が成長していきます。
それぞれの枝葉で作られた栄養は幹に集まってきますので、
樹木全体の成長具合は幹に現れてきます。


しかし、樹高や葉や枝の成長と違い、『幹の成長度』と言われても
その木の幹の肥大成長が旺盛なのか、成長が悪いのか、
素人目にはなかなか難しい・・・と思うかもしれません。

そこでこの項では『幹の成長の診かた』と、
幹の成長にはどんな意味があるのか
について述べたいと思います。



@)幹の肥大成長』の診断方法

目の前の木の、
幹の肥大成長(つまり幹が太くなる成長)が活発であるかどうかを判断する前に、
その樹種がそもそも、どの位の大きさになる木であるのかを知らないと話が始まりません。
例えば、大木になるスギと低木であるシャクナゲを同列には判断出来ませんよね?

成長の悪い子象と
成長の良い猫とを
どちらが大きいのか?と比較することに意味がないように、
象と猫を同列には語れないことと同じようなものです。

つまり、同じ樹種として成長が良いのか悪いのか?
という、同じ土俵で判断することが大前提です。


では次に知るべきことは、
肥大成長といっても、幹は万遍なく成長するわけではない
ということ。

幹の成長というものはそもそも、
葉で光合成した栄養を使って成長しているのです。
葉で光合成した養分は、根の方向に移動していきます。
その途中途中で消費しますので、
栄養は葉に近いほど濃く、根に近いほど薄くなる。
基本的に栄養の濃いほど、成長が良いと思って下さい。

つまり、幹は上の方が肥大成長は大きいし、
より濃い栄養が流れてくる部分の成長も良い。

・・・しかし、上の方が太い幹なんてのは見たことがありませんよね?

下の方は過去に成長した分があり、
上はこれから新しく太くなるためです。

ちょっと分かりにくいですね・・・
ちょっと極端に書いてみましたが、
コチラの模型図1 模式図2を見てみてください。
図の上の方がこの木のテッペン方向です。
木目はもっと細かいものですし、
毎年の成長の変化量もこんなに極端ではないですが、
感覚的にはこんな感じです。
または、『年輪と構造の関係』を参照して下さい。


例えば、スギを例にとると分かりやすいかもしれません。
よく管理されたスギ林のスギは、
上の方と下の方で幹の直径にあまり差がありません。
枝葉は樹木の上の方にしかついていません。
(林の中は暗いので、下の方に葉をつけていられない)
電柱のように上と下の太さの変わらない杉を見たときには、
このことを思い出してみください。    


また、
枝によって、生産される栄養の量に差があるので、
(枝ごとの葉の量は違うので)
その枝による差が顕著だと、
(例えば、ある枝が元から切られてしまえば、その枝からの収入はゼロになる)
幹の成長も部位によって極端に変わってしまう。

この現象は、ソメイヨシノを観察していただくとよく分かるかと思いますが、
木によって、まるで幹が捻じれたようになっているものがあります。
ソメイヨシノは、剪定によって枝が痛むことがあまりにも多いため、
太枝が枯れてしまうことが良くありますよね?
幹の中で、その枯れた枝から続いている師管が通っている部分の成長が落ち込むため、
その部分がへこんで見える。
普通に成長の変わらない部分だけがその後も肥大成長する。

桜の場合、道管・師管(もしくは木理)の『走り方』が竜巻のように捻じれているので、
生き残った部分が残るとまるで捻じれたような幹に見える。



ということで、
ちなみによく知られている、
幹の南側は日が良く当たるので太くなる
というのは全くの嘘であることがわかるかと思います。
そもそも木理がまっすぐ下に向かっているわけではありません。
サクラの場合は上述のようにぐるぐるまわっているので
それに沿って肥大成長は影響を受けます。
(この件に関する詳細はコチラ


A)幹の肥大成長 の意味

では、樹木がどのような状態だと肥大成長が盛んなのでしょうか?

これは、ケヤキを例にとると分かりやすいかと思います。
ケヤキの古木では、樹皮が剥がれているものをよく見かけますよね?    
樹皮が剥がれているのは、この部分の成長が良いためです。

肥大成長については前述したとおりですが                    
形成層での細胞の分裂・成長が良いほど、
どんどん師管や樹皮組織が外側に押しやられます。

しかし、細胞一つ一つの成長をみてみますと、
形成層で生まれた年は良いとして、
その後は数も大きさも増えません。
つまり、師管組織や樹皮組織の外周は変わらない。
変わらないのに、形成層より内側はどんどん太くなってくる。
ということは、師管組織や樹皮組織はどんどん引っ張られ、
しまいには裂けてしまいます。
妊婦さんの妊娠線のように。
そして幹の肥大成長が盛んであれば、
その裂け方もどんどん激しくなる。


つまり、上述のケヤキや松などでよく見られる樹皮の剥がれは病気ではなく、
一般的にはむしろ、肥大成長が盛んであるがゆえなのです。
(もちろん病気の場合もありますが)


また、同じ樹種で比較して、
その剥がれている樹皮が厚いほど、肥大成長が良いと診断できます。


B)注意点

さて、樹皮の剥がれが肥大成長の目安であることはご説明したとおりなのですが、
この肥大成長した理由には注意が必要です。

成長しているんだからいいではないか

と思われるかもしれませんが。
成長しているからといって元気が良いから
とは単純には言えない場合があります。

それはアテ材です。 

アテ材が形成される部分は非常に成長が良いため、
その部分にばかり目がいってしまうと問題があります。

幹が傾斜している場合や、
太い枝の下側などにアテ材がよく出ますのでご注意下さい。

といっても、不健康な樹木の場合、
アテ材を形成する元気もあまり出ないようです。


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