].樹木の健康管理



この話に入る前に、みなさんに質問です。


Q:『自然林の中にいる木と、人の生活圏の中にいる木では、
   どちらの寿命が長いでしょう?』




A:『人のそばにいる木の方が長生きする』

もちろん同じ個体ではないので単純には比較出来ないのは当たり前ですが、
押並べて言えば、そうなります。
野生動物が、自然の中よりも動物園の中の方が長生き
というのに似ていますね。
なぜでしょうか?


まず、森の中では競争が激しいということ。
競争とは主には光の奪い合いです。
たくさんの木がお互いにせめぎ合っていますので、
一本の木が確保できる空間・面積は、
単木で植えられているものよりもずっと小さくなってしまいます。
そのため樹高をどんどん上に伸ばして行く必要があり、
そうすると、梢端部では水が足りなくなってきます。
また、幹が長くなる、ということは、
光合成をしないが呼吸はするという部位が多くなる
ということになりますので、その分、余計に栄養が必要になります。

樹木にとってもっとも好ましい樹形は、
樹高が低く、横に大きく広がっている、という状態です。
そうすれば、幹も短くすみ、葉はたくさんつけられ、
光もたっぷりと受けられます。
つまり、『黒字がより大きくなる』ということです。
当然、樹木はとても元気な状態となります。


もう一点、忘れてはならないのは、
人の生活圏の中にいる、ということは、
人が面倒をみているということです。
例えば、神社の中には古木で大木がたくさん生きています。
神社は当然、木を大切にしていますが、
忘れてならないのは、周辺住民です。

昔は全国どこでも田園地帯だったので、
住民とはすなわちお百姓さんたちです。
今でも農家の方々はプロですので、
私がこのサイトでずっと強調してきたような、
『「樹木にとって、根、つまり土が大切なんだ」』
ということは、当たり前に分かっていたことでしょう。
また、根元の管理や施肥なども、自分たちが使っているものを
少しずつやっていたことでしょう。

そして何より、それらの古木・大木に対して、敬意と愛情
誰もが当たり前に持っていたのです。

愛情とは、それすなわち、関心を持つということですから、
何か異常があれば直ぐに気づくでしょうし、
樹木に元気がなければ、水が足りないのか、肥料が必要か
土が悪いのかなどと色々と面倒を見る人がいたはずです。
その古木が、例えば樹齢500年なら、
その500年の間、そういう人たちが入れかわり立ちかわり、
連綿と面倒を見てきたのを忘れてはなりません。

古木は、勝手に長生きしてきたのではないのです

古木・大木のそばに寄り添うと、その圧倒的な存在感と、
その長い歴史に圧倒されますが、
私はそれに加え、数多くの先人たちの愛情を感じずにはいられません。


今の時代、そんな古木の根元を平気で駐車場にし、
やれ落ち葉が邪魔だ、日陰になる、と枝をバサバサ切り落とし、
それで木が弱ると、酸性雨だの排気ガスだの、
結局は他人のせいにする。

彼らを痛めているのは、紛れも無く、私たち自身なのです。



樹木の健康管理についてですが、
農業をする人ならば感覚的に直ぐわかっていただけると思うのですが、
『光や水が十分にあり、風当たりが強くなく、
 土が畑のようにフカフカである』
という条件にいかに近づけるのか?
それが、もっとも大切なことです。

特に、土がもし畑のようにフカフカであれば、
他の条件が多少悪かろうが、まず問題は起こりません。
それぞれの問題は、樹木自身がその活力でカバーしてしまいます。

樹木治療の眼目は、これに尽きます。



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