F物理的な傷


枝は剪定されたり風で折れたり、車に引っ掛かったりするので、
よく傷を受けます。
そして、そういうことは「よくある」ことですし、
日当たりの悪い枝は樹木自身が枯れ落とすので、
枝の傷に対する樹木の対応は、割と迅速かつ効果的です。

しかし、樹幹が傷を受けることは大変なことです。

人間に例えるなら、枝は手足、幹は体のようなものです。
手足を切り落としても生き延びますが、
体を切り落とされれば死んでしまいます。

まず、幹は傷つくのはどんな場面でしょうか?


@ 枝や根からの腐朽が幹にまで及ぶ場合
桜では幹によくウロが出来ていますが、
これは大体において、剪定がヘタだったせいです。
悪剪定のおかげで枝や幹に腐朽菌が入り、
それが拡がってウロができます。

A 車などに傷つけられた場合
駐車場などで見られる例です。そんなには多くないケースです。
幹にぶつかる前に枝にぶつかりますので。

B 落雷による傷(右の写真参照)
実はこの例が大変多いのです。
高木になるとまわりに大きな建物などが無い場合が多いため、
その高木に落雷するケースがとてもよくあります。
落雷による傷であるかどうかを見分けるのは比較的簡単です。
頂端部から根までまっすぐに傷が残っているものは、
落雷であるとみて間違いありません。


幹に傷が入ってしまってからの樹木の対応はどうしているのでしょうか?

樹木はまず、菌が入ってしまった部分を『隔壁』のようなもので隔離します。
菌が入った部分とまだ入っていない部分の境目に
化学物質を充填・集積していきます。
道管などの穴をゴム状の物質(チロースなど)で埋め、
抗菌物質も集積していきます。
つまり、心材に行う工程と同じように、
材が腐り難くします。

何らかの原因でこの『隔壁』にさらに傷がついてしまうと
その隔壁を菌が突破して大変なことになります。
傷がつき、侵入してきた菌類などと戦って体力が低下しているのに、
さらにそれを突破されてしまうような事態になれば当然、
樹木は回復不可能なダメージを負うことになってしまうからです。


以上述べてきましたように、
幹に傷が入ることは何より避けなければなりません。

しかし街の樹木は、悪剪定や、工事による根切りなどに
常に晒されています。

逆に言えば、剪定や根を痛めない工事、
幹を傷つけないようにすることに注意することこそが、
樹木にとって一番大切なこと、
と言えるかもしれません。



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